就活はいつから始まるのか|政府の要請を原典で読んだら、ESの提出は「選考」に入っていなかった
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就活のスケジュールは「3月に情報解禁、6月に選考解禁」と説明されます。
この説明の元になっているのは、政府が毎年出している要請文書です。19ページある原典を全部読みました。 本文ではなく脚注に、説明から抜け落ちている記述がいくつもありました。
特に次の3つは、知っているかどうかで動き方が変わります。
- エントリーシートの提出とWebテストは、「採用選考活動」に含まれない
- 「3月1日解禁」の起点は、就活サイトが学生の登録受付を始めた時点
- 政府文書が、就活エージェントによるオワハラを名指しで挙げている
この記事は、その原典に書かれていることの整理です。筆者の就活体験の記録ではありません。
読んだ文書
「2027(令和9)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」(令和8年3月24日)です。
出しているのは4つの役所の連名でした。
内閣官房内閣審議官 文部科学省高等教育局長 厚生労働省人材開発統括官 経済産業省経済産業政策局長
宛先は「経済団体・業界団体等の長」です。学生に向けた文書ではなく、企業に向けた要請です。 そして名前のとおり「要請」であって、法律ではありません。罰則もありません。
ただし後で触れるとおり、一部は法律と指針に裏打ちされています。要請だから全部無視していい、という話ではありません。
日程ルールは3つ
原典にはこう書かれています。
・広報活動開始:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降 ・採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降 ・正式な内定日:卒業・修了年度の10月1日以降
ここまでは、よく説明されているとおりです。
見落とされがちなのは対象範囲のほうでした。脚注にこうあります。
日本国内の大学、大学院修士課程、短期大学、高等専門学校の卒業・修了予定者が対象であり、大学院博士課程(後期)に在籍している院生は、この限りではない。
博士後期課程は、この日程ルールの対象外です。
ESの提出は「採用選考活動」ではない
ここが一番大きい発見でした。
「6月1日に選考解禁」と言うとき、その「採用選考活動」が何を指すのかは脚注で定義されています。原文です。
採用選考活動とは、一定の基準に照らして学生を選抜することを目的とした活動をいう。具体的には、選考の意思をもって学生の順位付け又は選抜を行うもの、あるいは、当該活動に参加しないと選考のための次のステップに進めないものであり、こうした活動のうち、時間と場所(オンラインを含む。)を特定して、学生を拘束して行う面接や試験などの活動をいう。エントリーシートの提出、ウェブテストやテストセンターの受検などによる事前スクリーニングは、日程・場所等に関して学生に大幅な裁量が与えられていることから、採用選考活動とは区別する。
つまりESの提出とWebテストの受検は、この日程ルールが言う「採用選考活動」に入っていません。
6月1日より前に企業がESを出させても、Webテストを受けさせても、この要請に反したことにはなりません。そして実際、そうなっています。
理由も書いてあります。「日程・場所等に関して学生に大幅な裁量が与えられていることから」。面接のように時間と場所で拘束されるわけではないので、学業を妨げないという整理です。
納得できるかどうかは別として、「6月までは何もしなくていい」という読み方は、原典の定義からすると成り立ちません。 ESとWebテストは、それより前に動きます。
「3月1日解禁」の起点は、就活サイトの登録受付
広報活動のほうにも定義があります。
広報活動とは、採用選考活動を目的として、業界情報、企業情報、新卒求人情報等を学生に対して広く発信する活動をいう。その開始期日の起点は、自社の採用サイト、求人広告会社や就職支援サービス会社の運営するサイト等で、学生の登録受付を開始する時点とする。
起点が「学生の登録受付を開始する時点」と明記されています。だから3月1日に各就活サイトが一斉にオープンします。あれは慣習ではなく、この定義に合わせた動きです。
逆に言えば、登録受付より手前にあるもの──スカウトサービスへの登録やプロフィール作成は、この日程の外側にあります。
スカウト型のサービスそのものについては、就活スカウトサービス3つを公式情報だけで比較したで3社の公式情報を整理しました。
政府文書が、就活エージェントのオワハラを名指ししている
3つ目です。これは引用します。
学生が、就活エージェント等の名称で職業紹介事業者が提供する職業紹介サービスを活用し、企業から内々定を受けた際、当該就活エージェント等から、他企業への就職活動の終了を迫られる等の事例もみられる。
政府の要請文書に、就活エージェントという業態を名指しで、こういう事例があると書かれています。
同じ脚注は、学生側と行政側のやることも書いています。
大学は、学生に対し、不必要に複数の内々定を保持する行為などは厳に慎み、節度ある就職活動を行うよう、周知徹底する。都道府県労働局・ハローワークにおいても、学生からの相談を受けつけ、相談者の意向も踏まえつつ、事実確認の上で、適切に対処する。
就活エージェントは便利なサービスで、使う価値はあります。ただし**「エージェントから他社の選考をやめるよう言われた」というのは、政府が問題として把握している事例です。** そう言われたときに「自分がおかしいのかな」と思う必要はありません。
オワハラは、指針に書かれた「行わないこと」
オワハラという言葉も、雰囲気で使われている印象がありますが、定義があります。青少年雇用促進法第7条にもとづく指針(平成27年厚生労働省告示第406号)からの引用です。
採用内定又は採用内々定を行うことと引換えに、他の事業主に対する就職活動を取りやめるよう強要すること等青少年の職業選択の自由を妨げる行為又は青少年の意思に反して就職活動の終了を強要する行為については、青少年に対する公平かつ公正な就職機会の提供の観点から行わないこと
要請本文のほうは、もっと強い言い方をしています。
いわゆるオワハラ等の行為は、職業選択の自由を侵害するおそれがある許されない行為であり
「望ましくない」ではなく「許されない行為」です。
オヤカクもオワハラになり得る
内定承諾に親の同意を求める、いわゆる「オヤカク」についても脚注があります。
内定辞退の防止を目的として、内定を承諾することに保護者の同意を強要する等、いわゆる「オヤカク」には学生の職業選択の自由を妨げる「オワハラ」に該当し得るケースがあることに留意が必要である。
「親に確認してもらってください」が、場合によってはオワハラに該当し得る、と政府文書が書いています。
2026年10月1日から、求職者へのセクハラ防止が義務になった
これは時期的に新しい話です。脚注にこうあります。
特にセクシュアルハラスメントについては、令和8年10月1日より改正男女雇用機会均等法が施行され、全ての事業主に対し、求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講ずることが義務付けられる
令和8年10月1日は2026年10月1日です。すでに施行されています。
ポイントは「求職者等に対する」という部分です。従業員ではなく、選考を受けている段階の学生に対するセクハラ防止が、全事業主の措置義務になりました。 要請ではなく法律の話です。
困ったときの相談先
要請文書は、相談先についても書いています。
ハラスメントへの対応を含め、職業安定機関(ハローワーク)と連携し、学生からの苦情・相談を迅速かつ適切に処理する体制を整備することを要請する
学生側の窓口として挙げられているのは都道府県労働局・ハローワークです。さらに「都道府県労働局・ハローワークと大学のキャリアセンター等の窓口は、事例の共有等の連携を行う」ともあります。
大学のキャリアセンターか、労働局・ハローワーク。この2つが原典に書かれた窓口です。
生成AIについては、何も書かれていない
このサイトはAIツールを扱っているので、確認しました。
19ページの全文を検索しましたが、「AI」「人工知能」「生成」という語は一度も出てきません。
ESをAIに書かせていいのか、企業がAIで選考していいのか。2027年度卒の要請の時点で、政府はどちらにも触れていません。 ルールがないので違反のしようもありませんが、裏を返せば何の保証もありません。 判断は各企業に委ねられている状態です。
大学のレポートについては文部科学省が文書を出していて、そちらは大学はレポートでのAI利用を認めているのかにまとめました。レポートにはルールがあり、ESにはない、というのが現時点の整理になります。
なお、ESや自己PRをAIに下書きさせる場合、入力しているのは自分や他人の個人情報です。学習に使わせない設定はAIに個人情報を入れていいのかに書きました。
2028年度卒からは変わるかもしれない
同じ文書に綴じられている就職問題懇談会(国公私立の大学・短大・高専の関係団体の代表で構成)の要請には、こう書かれています。
令和10年度以降の卒業・修了予定者の就職・採用活動については、経済界や大学等とが十分に議論を行い、見直しの検討を進めることが重要と考えております
令和10年度卒=2028年度卒からは、日程ルールそのものが見直される可能性があります。いま1・2年生なら、このスケジュールが自分の代まで続くとは限りません。
まとめ
- ESの提出とWebテストは「採用選考活動」に含まれない。 6月1日より前に出させても日程ルール違反にならない。「6月まで何もない」は原典の定義と合わない
- 「3月1日解禁」の起点は、就活サイトが学生の登録受付を始めた時点と明記されている
- 政府文書が、就活エージェントから他社の選考終了を迫られる事例を名指しで挙げている
- オワハラは指針で「行わないこと」とされ、要請では「許されない行為」と書かれている。 オヤカクも該当し得る
- 2026年10月1日から、求職者へのセクハラ防止が全事業主の措置義務になった(改正男女雇用機会均等法)
- 相談先は都道府県労働局・ハローワークと大学のキャリアセンター
- 生成AIについての記述は、19ページ中に一つもない
- 2028年度卒からは日程ルールが見直される可能性がある
- この日程ルールの対象は大学・大学院修士・短大・高専。博士後期課程は対象外
出典・注記
- 「2027(令和9)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」(令和8年3月24日、内閣官房内閣審議官・文部科学省高等教育局長・厚生労働省人材開発統括官・経済産業省経済産業政策局長)。内閣官房の掲載ページにあるPDF全19ページで確認しました(2026年10月24日確認)。本文中の引用はすべてこの文書の原文です
- オワハラの定義は、同文書の脚注が引用する「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第406号)によります
- 就職問題懇談会の要請は、同じPDFに綴じられている「令和9年度大学、短期大学及び高等専門学校卒業・修了予定者に係る就職について(企業等への要請)」(令和8年3月24日、就職問題懇談会)によります
- この要請は毎年度出し直されます。 2028年度卒以降は内容が変わる可能性が明記されています。自分の卒業年度の文書を確認してください
- この記事は公開されている政府文書の整理であり、法律相談ではありません。 実際にハラスメント等の被害にあった場合は、大学のキャリアセンター、都道府県労働局、ハローワークにご相談ください
- 生成AIに関する記述の有無は、PDFから抽出した全文に対して「AI」「人工知能」「生成」で検索した結果です。今後の年度の要請で追加される可能性があります